インタビュー(唐渡 広志教授)

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ーーまず、研究内容について教えてください。

 

唐渡氏:私は富山大学学術研究部社会科学系の経済学部に所属しています。専門分野は経済学で、その中でも「不動産を対象とした経済分析」をメインの研究テーマとしています。不動産とは,土地や建物(戸建住宅、マンション、賃貸オフィスなど)のことを指しますが,そうした不動産に関しての需要と供給や、それらの価格決定のメカニズムに関心を持っています。

 

ーーありがとうございます。その研究はどのような特徴を持っているでしょうか?

 

唐渡氏:住宅の価格やオフィスの家賃といった指標には、さまざまな情報が含まれているのではと考えています。普通の財やサービスは,商品そのものが移動したり,サービスを提供する供給者自身が移動することでさまざまな場所で売買することが可能ですが,不動産は読んで字のごとくその場所から動かすことができません。そのため,場所に関連するさまざまな価値が不動産価格に帰着することになります。つまり不動産の価格には,実際に市場で売買されているものに加えて,市場で売買されない価値も含まれていると考えられます。

 

例えば地域によって値段が異なったり、オフィスビルでも場所によって大きく違うことがあります。単に空間を提供しているだけの場所でも、場所が異なるだけでその人々の価値判断や価値の付け方が変わってくるのではないかと思います。この価格差はどのようなメカニズムで生じるのでしょうか。また、時間とともに価格は変動し、同じ空間であっても値段が以前と異なったり、上がったり下がったりします。そのような価格の変動はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。これらの点を調べようと考えています。

 

私の場合得られる情報としては、「価格」になります。これはどなたでも入手可能ですが、価格というデータがどのような仕組みで形成されているのかを、統計的な手法を用いて分析していく、そこが私の研究の大きな特徴だと思っています。

 

ーー環境などの便益評価でヘドニック法を使用しているのでしょうか?

 

唐渡氏:市場で売買されないものの典型は環境です。例えば,近所に煤煙を出す工場がある,広い道路に面していて便利であるが交通量が多くてうるさい,春にはお花見ができる美しい公園がある,などといった情報自体は明らかですが,それが不動産においてどのような価値を占めているのかは良くわからないわけです。この理由は,煤煙,騒音,景観などを売買する市場が存在しないからです。

 

そのような情報が価格にどれほど反映されているかを分析する際に、ヘドニック法とよばれる手法を利用して環境の差異がもたらす便益や不便益の価値を測定することがあります。

 

ーーありがとうございます。回帰分析を使用して要因を特定しているのですか?

 

唐渡氏:そうですね。「価格」というデータがどういう仕組みで発生しているのかを統計モデルで考えるわけですが、最も役立つ統計的手法がいわゆる回帰分析です。

 

回帰分析を通じて、価格を決定するさまざまな要因を調べ、果たして何が原因なのかということに迫っていきます。例えば、物件の面積が広いこと、最寄り駅までの距離が近いこと、近くに小学校や病院があるといった要因が価格に与える影響を回帰分析で見ています。

 

回帰分析は非常に簡単・便利で、変数間に統計的に意味があるかないかということをはっきりさせる時によく使われる手法ですが,分析の背後で想定されている統計的な仮定はかなりシビアなので,経済データのようにきれいではない情報を扱う場合にはケアしなければならない点がたくさんあります。

 

ーー現在の研究を開始されたのはいつ頃ですか?

 

唐渡氏:今の研究テーマを始める前に地方財政のことに関心がありました。地方公共団体は住民から税を徴収し,公共サービスを提供します。税金の取り方と提供する公共サービスを一つのパッケージに見立てた場合に,住民にとって一番納得のいくような選択肢は何だろうか,住民の移動・立地行動にどのような効果を持つだろうかという点がテーマとしてありました。

 

この分野においても多くの理論的・実証的な研究が積み重ねられています。都市や地域が「魅力的である」といった場合、そこに多くの人が住み、家賃を払ったり家を買ったりすることで、空間スペースを消費しています。その対価として住民税や固定資産税などを支払いますが,空間スペースに対して支払っても良いと考える金額は,家計や企業の意思決定に依ります。我々はこれを足による投票とよんでいます。

 

どのような地域においても、その地域の価値が実際の土地や空間の価格に反映されているのではないかと思いました。効率的な地方自治体の運営や住民の満足度を考えた時に、不動産の価格がどういうメカニズムで決まっているのかということを解明することが重要だと考えました。

 

ーー現在、データサイエンスやAIが注目されています。

 

当然ながら,不動産価格や市場の知識は、主に土地や住宅を商品として取り扱っている不動産業界で重要です。例えば,中古住宅を売った場合にいくらで売れるのか,あるいは買うのであればいくらまで出すべきかなどの判断をする際に大事になります。

 

今,多くの不動産会社は、売るか否かの判断を下す際に経験や勘ではなくAIやデータ分析を活用しています。どのようにしてそのような分析を最適に行うか、その仕組みの構築に私も研究を通じて関与しています。

 

ーー質問ですが、先生はバブル経済の時代から研究を始められましたか?バブル崩壊時の価格の暴落を当時予測することは可能でしたか?

 

唐渡氏:私が大学に進学したのはバブル崩壊後の時期でした。当時、不動産を研究テーマとする中で一つの大きな方向性として、不動産市場が国の経済パフォーマンスにどう影響を与えるのかというマクロ経済的な視点が取り上げられていました。私自身の研究テーマとは異なりましたが、このマクロ的な側面は非常に重要で、不動産と金融は密接に関連しており、バブル期間中に市場に流れ込んだ資金の多くが結局、不動産投資へと向かいました。

 

歴史上,バブル経済は世界中で何度も起きていますが,価格の暴落が起こってからそれがバブル経済であったことを認識するケースがほとんどです。古典的なバブルの理論研究では,バブルの発生と崩壊は外生的なショックで起きることを仮定しており,予測不能の出来事であることを踏まえた分析しかできていません。バブル崩壊は予測可能かという問いに対しては,まだまだ研究の途上にあるというのが回答になると思います。

 

ーー不動産に注目されたきっかけを教えてください。

 

唐渡氏:学部生の頃に東京の大学に通っていたとき、『東京問題の経済学』という本に出会いました。

 

東京は多くの人が集まり、魅力的で便利な場所です。しかし、一方で物の価格、特に土地の価格が非常に高いのは大きな特徴でした。バブル経済の後遺症で土地の価格が依然として高く、たとえ多くの魅力があったとしても、多くの人にとっては手の届かない値段で家を持つことが難しい状況でした。

 

不動産は日本経済全体とも密接に関わっており、また個人の生き方や生活スタイルにも深く関連しています。その後、さまざまな本を読んで勉強する中で、この分野を深く研究している先生がいることを知り、その先生のいる大学院に進学しました。

 

ーーありがとうございます。今の研究を進める中で大変な点は何ですか?

 

唐渡氏:そうですね。不動産の価格がどのような仕組みで決まるかに関して、多くの研究者が取り組んでいますが、行き詰まっているところがあります。どの統計分析方法が最も適しているかという点で競争している側面もあります。

 

さまざまな方法や道具が提案されていますが、現在のところ、これが正解だと断言できるものはないと思っています。その正解を見つけるためには、さらなる研究と深い考察が必要で、これが最も難しく感じる部分です。今後も取り組んでいく課題だと考えています。

 

ーー先ほど企業のお話が出ましたが、どのような取り組みや連携を企業としているのか教えてください。

 

唐渡氏:最近では、金融情報を扱うある東京の会社からアートの市場価格や電力卸売市場の価格について分析してほしいという依頼があり、取り組んでいます。

 

アートは、不動産と同様に有形な資産ですが、価格の決定方法は異なります。私自身、アートの詳細や現在の芸術家、作品の価格などを知りませんでした。色々お話を伺っているうちに、その分野が魅力的であると感じるようになりました。クリスティーズやサザビーズのように世界的に有名なオークションハウスがありますが、そういったところからデータをとります。例えば、草間彌生の作品はいくらで取引されていて、過去に比べてどう推移しているか、価格の標準的な動きはあるのかなどを分析します。

 

ピカソや草間彌生の作品は非常に高価です。これは、家や土地の購入額を超えることもあります。投資家は、株や債券を購入してリスクを分散する中で、絵画なども投資対象として含めることがあります。その理由は,アートのリスク・リターンが通常の金融資産と異なる点にあります。

 

例えば,一度定着した作品の価値は値崩れしにくい,場所や建物と融合させることで新たな価値を生み出す,などの特長です。また,遺産相続において現金や株という形ではなく、絵画で残していくことは、減価償却の法律が違うので節税になるとも言われています。

 

通常、株や債券の組み合わせを「ポートフォリオ」と呼びますが、アートに関してもポートフォリオを考える基準としての価格指数や変動率を計算するところから始める必要があります。株価では、日経平均株価指数、債券では利息が何パーセントであることが明らかにされていますから、投資家にはこういった情報が入ります。

 

絵画に関しては、多くが勘に基づいており、情報の不足を感じるところが多くあります。投資家にこのような情報を提供することで、情報自体が価値を持つと考えています。私は価格の水準や変動率を計算するための方法を一緒に検討する形で情報提供しています。この研究を始めて約2〜3年経ちます。

 

ーー分析した結果は、当たりますか?価格の予測はどのくらい正確ですか?

 

唐渡氏:まだ予測段階には至っていません。今までどうなっていたかというところまではわかっています。

 

ーーつまり、過去の動きを把握しているということですね。

 

唐渡氏:そうですね。データ分析はしなくても、美術品に詳しい人たちは、ある程度のことを感覚的に知っています。彼らならば、「草間彌生の作品はこれぐらいの値段で、モネの作品はこのくらいする」といった感覚を持っています。そういった実感と私たちがやっているような推定をいろいろ付き合わせています。

 

予測に移るにはさらにいろいろな手法を導入しないと難しいので、それは次のステップだと思っています。

 

ーーアートの世界は、一部の投資家の人たちが勝手に決めていると思っていました。

 

唐渡氏:そうですね。世の中の不動産と同様に、鑑定価格というのがあります。専門家がいて、例えば、「これは1億円です」ということを決めています。情報がなければ取引は進まないため、この鑑定行為は重要だと思います。

 

それとは別に私たちが使っているオークションハウスのサザビーズとクリスティーズの落札価格データがありますが、これは世の中の人々がこの価値に対してどれぐらい最大の価値を認めているかの意思表示になっています。

 

マーケット全体としては、他に画廊やデパートなどでの購入経路もありますが、オークションは、人々の思惑が強く反映されているので、分析する上で非常に面白いと感じています。また,開催されたオークションにおいて落札価格に関する情報は、基本的には公開されているので情報の信頼性を確かめやすいという特徴があります。

 

もう一つ私が取り組んでいる研究領域は電力に関するものです。電力には価格がついており、消費者は毎月電力会社から送られてきた請求書に対して支払いをしています。

 

現在、消費者は小売段階でどの電力会社と契約するかを選べます。また、以前は売り手は主に地域の電力会社でした。しかし、現在その参入規制が緩和されているため、大きな工場であれば、自分で発電する設備を持って電力を生産できます。そして、これまで余った電力を売るマーケットは存在しなかったのですが、最近になって余った電力を売り買いできる電力の卸市場というのが出来上がってきました。

 

金融業界ではこれを「先物」と呼び、将来の商品をどれぐらいの値段で売買するかという取引に関する情報として使用されます。明日の電力価格がいくらになるかは誰にもわかりませんが、それに関しての予測のようなものがあると良いということで、企業と電力卸売価格の予測モデルのようなものを作ったりしています。

 

研究チームの中には、電力卸売価格情報をサービスとして販売する方やシステムを作る方もいて、私はそのための統計的分析を担当しています。私たちのチームは、業務上の知識,IT基盤やエンジニアリングの知識,統計モデル作成の知識を掛け合わせる体制で協働しています。

 

電力価格は、1日に48回,30分おきに値段が刻々と変わっています。朝、人々が起きて活動を始めると自宅で家電を使い、オフィスや工場が稼働し、そこで電力が消費されます。時間ごとに電力の価格は違います。

 

その価格変動は、直感的な予測を超えて急騰することがあります。例えば寒い季節になると、急激に人々が暖房を使い始めて需要が増えます。電力の供給を短期的に増やすことには限度があるので,どんなに売りが増えたとしても供給曲線はいずれ完全に非弾力的になります。その結果、電力の価格は急上昇します。私たちは価格スパイクとよんでいますが,普段は8円/kwh〜10円/kwhで売買されているのに、100円/kwhを超えるような信じられない値段がつくことがあります。そこで購入した電力を小売で販売するわけですから,電気料金に価格転嫁できなかった電力卸売市場の会社は続々と倒産・市場撤退することになりました。

 

情報が不足しているという問題点があります。例えば、明日の16時の価格がこれぐらい、あさっての21時の価格がこれぐらいになるという予測を提供できるようになれば、リスクを回避できるのではないかと考えています。

 

価格の動き自体を変えることはできませんが、他の方法や領域に資金を振り向けてリスクヘッジできるのではないかということです。このサービスが投資家に対してすごく良いサービスになるということで、これに現在取り組んでいます。

 

ーー人よりも早く変動が見つけられれば、ヘッジできるということですね。

 

唐渡氏:そうです。

 

ーー早く正確な変動を見つけてお客様に提供することで、価格が上昇する情報が広まる前に手を打てるため、価格が上がる前に購入できますね。安く買って高く売るというのが基本ですから、「これは高くなる」という情報を掴む前に、その情報を先取りして提供できれば、価格が上昇する前に購入が可能となるということですね。

 

唐渡氏:難しい点は、発電は現在の設備に限定されるため、供給量をそれ以上増やせないということです。例えば寒くなってみんなで暖房を使うと需要がどんどん増え、価格が急上昇します。そうなると市場は大混乱になってしまいます。

 

そこで事前に提供される情報サービスが役立つのです。

 

ーー石油やガスなど、電気以外の分野にも同じ考えが適用できるのではないでしょうか?

 

唐渡氏:そうですね。原油は供給を制限することもあるでしょう。また、将来的にアメリカの大手企業がどれぐらい石油・ガスを採掘するかで、状況は変わってきます。

 

ーー採掘技術の進歩で、今まで採れなかった場所からも採掘可能になることがありますよね。例えば、アメリカが世界一の産油国になったりしましたから。

 

唐渡氏:それで中東やロシアは大打撃でした。

 

ーーそういう情報を考慮に入れるということですね。

 

唐渡氏:はい、商品先物というのは、基本的に未知の要素が多いと思います。明日の価格は「これぐらいではないか」という予想程度しか答えられません。しかし、その程度の予測では情報としては不足しているため、例えば6か月後どうなるか、3年後どうなるかという見通しはできるようにするということです。

 

ーーところで、スマートシティやコンパクトシティに関わるプロジェクトに関与されていると聞きました。

 

唐渡氏:富山大学では、都市デザイン学部の先生方と富山市が共同で進めている取り組みがあり、これはスマートシティのコンセプトに非常に合致していると思います。

 

取り組みの1つは、センサーを使用してリアルタイムで情報を収集し、そのデータを市民に還元することです。都市デザイン、都市工学、都市計画の専門家たちは、そのような仕組みをどのように構築するかを検討しています。

 

私の方では具体的なスマートシティへの実装にはあまり関わっていません。

 

ーー以前、2018年頃のコンパクトシティに関する講演会に先生が出席されていたという資料を見かけました。

 

唐渡氏:行政がどのような仕組みを実装することで、消費者に良い結果をもたらし、快適な生活を提供できるのかというのが主題でした。

 

もう一つ別の話で私が考えているのは、地方公共団体がどういった手段を取れば効率的な運営ができるのかということです。

 

その範疇には都市の空間的な範囲の問題も含まれており、どのような範囲が適切であるかというのが課題です。

 

何も規制せず都市の空間的範囲を広げていくと、通勤が困難な場所では自動車を利用し、都心への通勤にも車を使いながら、自らの好みで郊外に広い家を選ぶことになるでしょう。

 

これを全員がやると多くの人が広範囲に住むことになります。そこで何が起こるかというと、地方政府が公共サービスを提供しようと思った場合、その範囲が飛躍的に増加するわけです。

 

富山市では雪がたくさん降るため、その対応の直接費用が問題になります。そうすると当然、その公共サービスのコストが発生し、誰が負担するのかという話になります。

 

これは住民が負担するのが筋であると考えられますが、都心をどんどん広げると住民が集まる範囲と住民が負担するコストが乖離していきます。そういった時に、もっと街中にぎゅっと圧縮した方が便利ということになります。

 

これがいわゆる「コンパクトシティ」のコンセプトです。ある意味で人々に何か強いることになります。ルールを提案するとすれば、例えば郊外に立地する場合に何らかのペナルティを設ける、あるいは都心部に住むとことに対してメリットを与えるなどです。このように、飴と鞭を使えば恐らくコンパクトなシティがゆっくりと実現していくのだと思います。

 

経済学の立場から言うと一長一短ありますが、日本は、ずっと都市計画の規制が緩いことでも知られています。そして、地主の力が強く建てたもの勝ちみたいなところもあります。

 

私たちの社会の現状は、街がどんどん広がっており、ほとんどルールがないように感じます。それはそれで一定の自由を享受できているのかもしれませんが、一方で地方自治体が負担するコストは結局のところ住民に跳ね返ってくるということです。国もそうですが地方の債務残高もかなり積み上がっています。地方交付税交付金という形で大半の市町村財政の多くがカバーされていますが,今後,生産年齢人口が減っていく中で自治体の債務管理はかなり綱渡りのような状態になると思います。

 

その膨れ上がっているコストを抑えるという視点でいうと、コンパクトシティ政策というのは正当化できると感じています。以前の講演は恐らくそういう経済的な視点、便益と費用の比較でお話したものだったと思います。

 

ーーありがとうございます。現在もその辺りのことについて研究されていますか?

 

唐渡氏:仕事が多忙で、現在はその研究を一時休止しています。

 

ーー最近はどちらかというとボラティリティが高いマーケットにおける予測モデルをどう作っていくかというお話が多いということでしょうか?

 

唐渡氏:そうですね。最近は、伝統的な金融市場にアートや電力の卸売りなどが加わり、これらは従来の古典的な金融とは異なる部分を持っています。

 

また、民間企業の仕事とは別に、富山大学経済学部のデータサイエンス寄附講座に関わっています。

 

寄附講座には、富山大学の色々な先生が関わっています。県内の企業から課題を提供してもらい、それを教員、学生、そして企業の関係者との三者協同で取り組む、教育と研究を組み合わせた講座を実施しています。

 

例として私が関わったのは、県内の清涼飲料水を製造・販売する企業です。この企業は、その飲料をスーパーマーケットや自動販売機で販売しています。

 

その企業は、自動販売機の販売予測が困難で、特にコロナ禍以降、予測が一切当たらなくなったという課題を抱えていました。根本からのアプローチが必要と考え、実際に学生と協力して、コロナ禍でも自動販売機を通じた清涼飲料水の販売を成功させる方法について、寄附講座で研究しています。

 

寄附講座には、他にもさまざまな業種の企業から課題を頂いており、最近では自治体からも関心を寄せていただいています。

 

ーー実際、寄附講座における企業側のメリットはどのようなものでしょうか?

 

唐渡氏:共同研究の契約を結びますが、アウトプットとしては、「明日から100%儲かる」というような具体的な仕組みを提案するよりも、きっかけを作る場になっています。企業によっては人材難ですから、大学と通じることによって、人材獲得ができるというメリットがあります。これは研究そのものの効果よりも、副次的な効果として挙げられる面です。

 

富山大学は地域の大学なので、地元の企業と組むことによって地域貢献にもなりますし、

宣伝効果を持ちます。

 

私たちもこの点を意識して、県の様々な経済団体で講演やディスカッションの機会を設け、当該取り組みについての宣伝活動も行っています。

 

ーーありがとうございます。今後取り組みたいテーマはありますか?

 

唐渡氏:最近、オークションのデータを多く使用しており、オークションには美術品のクリスティーズやサザビーズのようなものだけでなく、ヤフーのオンラインオークションや不動産の競売も存在します。

 

オークションでは取引が成立することで初めて価格が確定するのですが、実はそこで世の中の人々がある商品に関してどれぐらい関心を持っているのか、どれぐらいの市場に人が参加するのかということが分かります。

 

ところが落札されない商品もあります。不動産では競売といって、差し押さえられた物件が競売されるマーケットがあります。

 

私たちが分析しているのは落札された商品だけですが、実際には値段がつかない、取引されない品も存在します。実は,統計分析する上で観察されなかった(取引されなかった)という事実も重要な情報です。私たちが関心を持つ対象の母集団は明確ですが、実際に取り扱っているデータはその中の一部に過ぎません。落札された商品だけを基に価格が高いか低いかを判断すると、大きな偏りが生じる恐れがあると考えています。このような偏り、すなわちバイアスを回避するための統計的手法について検討していきたいと思っています。

 

ーーそれを考慮するとどういったことが分かるのでしょうか?

 

唐渡氏:例えば、美術品を挙げると、ある作家の価格が変動していると言われた場合、その値動きは通常、価格指数で計算されます。基準点を1とした時、それが1.1や0.8のような指数に変動しますが、その指数の計算自体が実は間違っている可能性があるということです。

 

落札されたものとされていないものを考慮に入れた上でバイアスのない計算を実行すると、価格指数はもっと早いタイミングで上昇していたかもしれない、もっと早いタイミングで下落していたかもしれないのです。

 

投資家や一般の人々が経済全体の価格情報に基づく判断を見誤ることなく正しい情報を受け取れるよう、この技術が利用できるのではないかと考えられます。

 

ーー最後に、産学連携を推進している若い研究者へのアドバイスがありましたらお願いします。

 

唐渡氏:企業との関わり方は、専門分野によって相当温度差があると思います。私の所属分野は社会科学や経済学であり、工学系や医薬系の人たちと比べると企業との関わりは少ないです。しかし、最近は企業と経済学者や社会科学者がコミュニケーションをとることで,実は意外な知見をお互いに見出せるということもわかってきていますし,ビジネスへの実装に向けたエンジニアリング化も進んでいます。商品・サービス開発が最終目標としてある場合でも,多くの企業はその事前段階におけるビジネス創出,業務課題の発見,および人材育成などの点で方向性が定まっていないケースが非常に多いです。共創することで生まれる結果をアカデミックな成果につなげることができれば一番楽ですが,お付き合いを続けていくうちに独創的なデータが発掘できたり,新しい概念構築の種を見つけることができるかもしれません。

 

若い研究者への具体的なアドバイスとして、新しいテーマや独自の論文を研究していく場合、即座に自分の意図した研究結果が得られないこともありますが、広くアンテナを張って、そうした経験をきっかけとして研究を進めていくと良いと思います。

 

ーーありがとうございます。これにてインタビューを終了いたします。