★ぴあサポメルマガ8月号★合理的配慮を知ってますか?その3
2020/08/21 (Fri) 18:00
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合理的配慮を知ってますか?その3
―――――★ぴあサポメルマガ8月号★
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合理的配慮を知ってますか?その3
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前回は東京大学における合理的配慮の具体例をお伝えしました。連載の最終回となる今回は、合理的配慮とはいえ、配慮する側に過度な負担にはならないのか、逆差別の問題は生じないのか、といった素朴な疑問に答えるため、一歩踏み込んで考えていきたいと思います。
また、今回の連載を通じて興味を持ってくださった方に向けて、より深く考えてみたい時に参考になる文献のリストを載せました。
この問題には正解はありませんが、今回は理想論だけでは片付けることのできない現実に生じ得る問題に踏み込んだ内容になっています。メルマガ読者のみなさまには批判的な観点で読んでいただき、様々な議論の土台としていただければ幸いです。
1 過重な負担について
「合理的配慮を知ってますか?その1」のメルマガで記載したように、過重な負担は、行政機関等が自らの義務を免れる事由として、客観的根拠をもって証明すべき事項であると考えられています。
その際の考慮要素としては、事務・事業の目的、内容・機能を損なうか否か、物理的・技術的制約、人的・体制上の制約、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況等が挙げられます。もっとも、平等に学修・研究を行う権利を保障するという要請の重要性、バリアフリー技術の進展があることを踏まえると、過重な負担にあたると安易に判断してしまうのは避けられるべきでしょう。
なお、東京大学は、他の国立大学法人よりも事務・事業規模が大きく、財政状況も恵まれているため、障害のある学生の支援で先駆的役割を担うことが期待されていると考えられます。そのような恵まれた状況を活かし、財政的に厳しい大学等であっても応用可能かつ有効な配慮・支援方法等を東京大学が開発していくことが重要であると考えられます。
2 逆差別について
合理的配慮について全3回のメルマガで述べてきましたが、合理的配慮が、いわゆる逆差別にならないかという疑問が出てくるかもしれません。ここでは、逆差別を、「障害のない人が障害のある人に対する配慮の結果として、反射的に不利益を被ること」と定義します。
次の具体例では、相対評価で評価される、東京大学の進学選択制度や今回の記事の筆者の所属する法科大学院の成績評価を念頭に考えてみます。
例えば、発達障害や精神障害のある学生が課題を期限内に提出することが難しく、当該学生から教員に対して要望があった場合には、措置の検討がなされ提出期限を延長することがあるでしょう。そして提出期限の延長措置がなされた学生の課題が、学問的見地から見ると優れた評価を受けた場合に、期限内に課題を提出できたものの、学問的見地から見ると提出期限延長の措置を取られた学生の課題より低く評価された学生からすると、反射的に自分は不利益を被ったように感じる、もっといえば素朴に「ずるいな」と感じてしまうかもしれません。しかし、これは合理的配慮において妥当ではない感じ方であることを、皆さんに是非理解していただきたいのです。
この点を理解するために、近眼の視力矯正のための眼鏡について考えてみましょう。近眼は多くの方が経験する、身体機能の低下です(なお、最も矯正してもなお視力が一定以下である場合を視力障害といいますので、単なる近眼は視力障害には含まれません)。
近眼の方が眼鏡を掛けて遠くがよく見えるようになった状態を捉えて、それを「ずるい」と感じるでしょうか。多くの方は、眼鏡を掛けることによって、近眼でない人と同じものが見えるようになっただけで、決して「ずるい」とは感じないでしょう。障害のある人に対する合理的配慮とは、障害のある人が社会で生活していくにあたっての、近眼の方における眼鏡と同じ役割を果たしているのです。
先程の例でいえば、発達障害や精神障害のある学生は提出期限を延長してはじめて、障害のない学生と同じ立場で学問的に課題に向き合うことができる状態になるのです。期限を延長していない状態は、近眼の方が眼鏡を掛けずに無理をして社会生活を送ろうとするのと同じように、無理をして不便、不利益を強いられている状態であるといえるでしょう。そのような不便、不利益といった社会的障壁である「バリア」を取り去ることこそが合理的配慮の目的なのです。
よって、合理的配慮をしても、逆差別にあたることはありません。
3 アファーマティブ・アクションについて
ここからは、筆者の私見が多分に含まれるので、異論がある方もいるかも知れませんが一つの考え方としてご紹介させていただきます。
アファーマティブ・アクション=積極的差別解消措置とは、これまで社会において差別されてきた人々の社会的地位を向上させよう、そのため暫定的ではあるが、彼らに対する処遇を、その他の人々よりも優位におこう、とする考え方です。この考え方を合理的配慮の観点から敷衍してみると、障害のある学生が、少数者の立場であるからこそ見いだすことができる見解や成果に学問的な意義があると考えることができます。
少数者の立場にあることを加味して、多様性のある見解・成果を積極的に評価する仕組みをつくることが、これまで差別される側の立場にあった障害のある学生に対する差別の解消に資するといえると筆者は考えています。そのような考え方の是非についても、活発に議論がなされることが期待されるでしょう。
4 まとめ
これまで3回分のメルマガでみてきたように、高等教育機関では、障害のある学生であっても、平等に学修・研究を行う権利を保障するという要請からくる、特有の合理的配慮を求められます。そのため、東京大学では、その2で紹介したような様々な取組みが行われています。
以上のご紹介を通じて、みなさまの合理的配慮に関する理解の促進に資すること、ひいては、障害の有無によって分け隔てられることなく、おたがいに人格と個性を尊重し合いながら共生するキャンパスの実現に寄与することができれば幸いです。
【参考文献リスト】
今回のメルマガ連載を読んで興味を持ってくださった方は、より考えを深めるために、下記の書籍を読んでみられることをおすすめ致します。●をつけた書籍が、特に私のおすすめです。
●川島聡ほか編『合理的配慮 対話を開く、対話が拓く』(有斐閣、2016年)
・嶺重慎、広瀬浩二郎編『知のバリアフリー 「障害」で学びを拡げる』(京都大学学術出版会、2014年)
・野村茂樹、池原毅和編『Q&A障害者差別解消法―わたしたちが活かす解消法みんなで作る平等社会』(生活書院、2016年)
・障害者差別解消法解説編集委員会『概説 障害者差別解消法』(法律文化社、2014年)
・中央法規出版編集部『障害者差別解消法 事業者のための対応指針(ガイドライン)』(中央法規出版、2016年)
・独立行政法人日本学生支援機構編『合理的配慮ハンドブック 障害のある学生を支援する教職員のために』(独立行政法人日本学生支援機構、2018年)
・佐藤(野田)眞理子、吉田正治『高等教育のユニバーサルデザイン化 障害のある学生の自立と共存を目指して』(大学教育出版、2004年)
・Bonnie M. Hodge、Jennie Preston-Sabin編、太田康晴監訳『障害のある学生を支える 教員の体験談を通じて教育機関の役割を探る』(文理閣、2006年)
【筆者紹介】
法学政治学研究科法曹養成専攻2年。社会人経験を経て法科大学院に入学して法的・経済的問題に直面して困っている人に対してアウトリーチ的にアプローチしていくことができる弁護士になることを目標に日々学修をしています。
【ピアサポートルームのWebサイト/Twitterの紹介】
活動カレンダーや活動内容が載っています。ぜひアクセス&フォローしてください!
☆Webサイト:http://ut-psr.net/
☆Twitter:@utpsr
【ご意見、ご感想をお待ちしています】
みなさまの声をお待ちしております。
https://forms.gle/Su1pyVkCqhmyYZRt8 まで、ご意見・ご感想をどしどしお寄せください。
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東京大学相談支援研究開発センターピアサポートルーム
[WEB] http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/psr/
[学生の作るWEBサイト] http://ut-psr.net/
[Email] mail@utpsr.net [Tel] 080-9410-0093
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合理的配慮を知ってますか?その3
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前回は東京大学における合理的配慮の具体例をお伝えしました。連載の最終回となる今回は、合理的配慮とはいえ、配慮する側に過度な負担にはならないのか、逆差別の問題は生じないのか、といった素朴な疑問に答えるため、一歩踏み込んで考えていきたいと思います。
また、今回の連載を通じて興味を持ってくださった方に向けて、より深く考えてみたい時に参考になる文献のリストを載せました。
この問題には正解はありませんが、今回は理想論だけでは片付けることのできない現実に生じ得る問題に踏み込んだ内容になっています。メルマガ読者のみなさまには批判的な観点で読んでいただき、様々な議論の土台としていただければ幸いです。
1 過重な負担について
「合理的配慮を知ってますか?その1」のメルマガで記載したように、過重な負担は、行政機関等が自らの義務を免れる事由として、客観的根拠をもって証明すべき事項であると考えられています。
その際の考慮要素としては、事務・事業の目的、内容・機能を損なうか否か、物理的・技術的制約、人的・体制上の制約、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況等が挙げられます。もっとも、平等に学修・研究を行う権利を保障するという要請の重要性、バリアフリー技術の進展があることを踏まえると、過重な負担にあたると安易に判断してしまうのは避けられるべきでしょう。
なお、東京大学は、他の国立大学法人よりも事務・事業規模が大きく、財政状況も恵まれているため、障害のある学生の支援で先駆的役割を担うことが期待されていると考えられます。そのような恵まれた状況を活かし、財政的に厳しい大学等であっても応用可能かつ有効な配慮・支援方法等を東京大学が開発していくことが重要であると考えられます。
2 逆差別について
合理的配慮について全3回のメルマガで述べてきましたが、合理的配慮が、いわゆる逆差別にならないかという疑問が出てくるかもしれません。ここでは、逆差別を、「障害のない人が障害のある人に対する配慮の結果として、反射的に不利益を被ること」と定義します。
次の具体例では、相対評価で評価される、東京大学の進学選択制度や今回の記事の筆者の所属する法科大学院の成績評価を念頭に考えてみます。
例えば、発達障害や精神障害のある学生が課題を期限内に提出することが難しく、当該学生から教員に対して要望があった場合には、措置の検討がなされ提出期限を延長することがあるでしょう。そして提出期限の延長措置がなされた学生の課題が、学問的見地から見ると優れた評価を受けた場合に、期限内に課題を提出できたものの、学問的見地から見ると提出期限延長の措置を取られた学生の課題より低く評価された学生からすると、反射的に自分は不利益を被ったように感じる、もっといえば素朴に「ずるいな」と感じてしまうかもしれません。しかし、これは合理的配慮において妥当ではない感じ方であることを、皆さんに是非理解していただきたいのです。
この点を理解するために、近眼の視力矯正のための眼鏡について考えてみましょう。近眼は多くの方が経験する、身体機能の低下です(なお、最も矯正してもなお視力が一定以下である場合を視力障害といいますので、単なる近眼は視力障害には含まれません)。
近眼の方が眼鏡を掛けて遠くがよく見えるようになった状態を捉えて、それを「ずるい」と感じるでしょうか。多くの方は、眼鏡を掛けることによって、近眼でない人と同じものが見えるようになっただけで、決して「ずるい」とは感じないでしょう。障害のある人に対する合理的配慮とは、障害のある人が社会で生活していくにあたっての、近眼の方における眼鏡と同じ役割を果たしているのです。
先程の例でいえば、発達障害や精神障害のある学生は提出期限を延長してはじめて、障害のない学生と同じ立場で学問的に課題に向き合うことができる状態になるのです。期限を延長していない状態は、近眼の方が眼鏡を掛けずに無理をして社会生活を送ろうとするのと同じように、無理をして不便、不利益を強いられている状態であるといえるでしょう。そのような不便、不利益といった社会的障壁である「バリア」を取り去ることこそが合理的配慮の目的なのです。
よって、合理的配慮をしても、逆差別にあたることはありません。
3 アファーマティブ・アクションについて
ここからは、筆者の私見が多分に含まれるので、異論がある方もいるかも知れませんが一つの考え方としてご紹介させていただきます。
アファーマティブ・アクション=積極的差別解消措置とは、これまで社会において差別されてきた人々の社会的地位を向上させよう、そのため暫定的ではあるが、彼らに対する処遇を、その他の人々よりも優位におこう、とする考え方です。この考え方を合理的配慮の観点から敷衍してみると、障害のある学生が、少数者の立場であるからこそ見いだすことができる見解や成果に学問的な意義があると考えることができます。
少数者の立場にあることを加味して、多様性のある見解・成果を積極的に評価する仕組みをつくることが、これまで差別される側の立場にあった障害のある学生に対する差別の解消に資するといえると筆者は考えています。そのような考え方の是非についても、活発に議論がなされることが期待されるでしょう。
4 まとめ
これまで3回分のメルマガでみてきたように、高等教育機関では、障害のある学生であっても、平等に学修・研究を行う権利を保障するという要請からくる、特有の合理的配慮を求められます。そのため、東京大学では、その2で紹介したような様々な取組みが行われています。
以上のご紹介を通じて、みなさまの合理的配慮に関する理解の促進に資すること、ひいては、障害の有無によって分け隔てられることなく、おたがいに人格と個性を尊重し合いながら共生するキャンパスの実現に寄与することができれば幸いです。
【参考文献リスト】
今回のメルマガ連載を読んで興味を持ってくださった方は、より考えを深めるために、下記の書籍を読んでみられることをおすすめ致します。●をつけた書籍が、特に私のおすすめです。
●川島聡ほか編『合理的配慮 対話を開く、対話が拓く』(有斐閣、2016年)
・嶺重慎、広瀬浩二郎編『知のバリアフリー 「障害」で学びを拡げる』(京都大学学術出版会、2014年)
・野村茂樹、池原毅和編『Q&A障害者差別解消法―わたしたちが活かす解消法みんなで作る平等社会』(生活書院、2016年)
・障害者差別解消法解説編集委員会『概説 障害者差別解消法』(法律文化社、2014年)
・中央法規出版編集部『障害者差別解消法 事業者のための対応指針(ガイドライン)』(中央法規出版、2016年)
・独立行政法人日本学生支援機構編『合理的配慮ハンドブック 障害のある学生を支援する教職員のために』(独立行政法人日本学生支援機構、2018年)
・佐藤(野田)眞理子、吉田正治『高等教育のユニバーサルデザイン化 障害のある学生の自立と共存を目指して』(大学教育出版、2004年)
・Bonnie M. Hodge、Jennie Preston-Sabin編、太田康晴監訳『障害のある学生を支える 教員の体験談を通じて教育機関の役割を探る』(文理閣、2006年)
【筆者紹介】
法学政治学研究科法曹養成専攻2年。社会人経験を経て法科大学院に入学して法的・経済的問題に直面して困っている人に対してアウトリーチ的にアプローチしていくことができる弁護士になることを目標に日々学修をしています。
【ピアサポートルームのWebサイト/Twitterの紹介】
活動カレンダーや活動内容が載っています。ぜひアクセス&フォローしてください!
☆Webサイト:http://ut-psr.net/
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【ご意見、ご感想をお待ちしています】
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東京大学相談支援研究開発センターピアサポートルーム
[WEB] http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/psr/
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[Email] mail@utpsr.net [Tel] 080-9410-0093
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